日立製作所が風力発電機生産から撤退、独エネルコンから調達へ~送配電に注力だが、いずれ国家電網と競合か~

日立製作所、エネルコン社の風力発電設備の販売、保守、運用に事業シフトへ

 

日立製作所、埠頭工場での風力発電設備生産を停止、エネルコンから調達へ

日経ビジネスが報じたところによりますと、日立製作所は茨城県日立市の埠頭工場での風力発電機生産をやめるとのことです。

今後は子会社の日立パワーソリューションズが調達している独エネルコン社製風力発電機の販売と保守、運用に軸足を移していくとのこと。

日立製作所はここもといろいろな構造改革を行ってきましたが、次世代のエネルギー源と期待される風力発電ビジネスでも事業内容の整理を行っていく方針です。

 

 

エネルコンからの風力発電設備購入の背景~あまりにも多すぎる日立製作所の事業内容

日立製作所は以前から事業が分散していると指摘されています。

下を見てもらえばわかりますが、どの事業セグメントも年間売上2兆円程度までのものばかり抱えています。

https://twitter.com/chu_sotu/status/1089292733708029952

これまでグローバルでトップの大きな事業がなく、どの事業でも4位、5位グループを形成しているのが日立製作所の悪いところでした。

現在、日立国際電気やクラリオンを売却するなど進めており、事業の選択と集中の最中となっています。

 

 

エネルコンは風力発電機の世界シェア5位、日立製作所はランク外

以下の風力発電機のメーカー別世界シェアデータによりますと、エネルコンの2017年のシェアは5位になります。

【統計】風力発電機のメーカー別世界シェア

そして、日立製作所はランク外です。

撤退して当然ですね。

日立はこの業界では明らかに負け組です。

むしろ今まで撤退してこなかったことが謎です。

一説には、日立は1000億円規模の投資を行ってどこかを買収しようと思っていたそうですが、良い案件がなかったとか。

 

 

 

 

エネルコンに対する日立製作所の評価~カットアウトによる系統への負荷が少ないことを好感?

エネルコンに対しては、日立パワーソリューションズ 新エネルギー本部 前川聡氏が記事を書いています。

エネルコン社風力発電設備の制御機能と適用例

これによると、エネルコン社の風力発電設備ではカットアウト(風速が一定以上になったときの強制運転停止)が起きないとのこと。

エネルコン社の風力発電設備に搭載されたストーム制御機構をONにして運用すれば、カットアウト風速の近くになると徐々に出力を低下させ、急激な変動を与えないとのこと。

風力発電機に特有の系統への負荷が軽減されることを高く評価しています。

台風などの多い日本の風土には適しているとみているようです。

 

 

 

日立製作所は設備をエネルコンなどから調達する一方、送配電ビジネスに特化か?

日立はABBから送配電ビジネスを7140億円で買収すると発表しました。

ABBのパワーグリッド部門買収により、かねてからの念願だった、世界トップシェアの事業を手に入れることになりました。

日立製作所は、原子炉の輸出では案件がすべて停止、国内の原発の新造も見通しがつきません。

火力発電所も世界的に再エネへのシフトのなか受注が激減しています。

かといって、風力発電機のシェアは日立はもともと低く、業界自体も中国企業が成長しており競争が激化しています。

日立としては、送配電ビジネスを伸ばしていく、という経営の方針が明確になったと思います。

世界から最適な設備を調達し、組み合わせて顧客に提案し、保守運用で稼ぐビジネス。

 

 

日立製作所が推進する送配電ビジネスは、EV時代、再生可能エネルギー時代、スマートグリッド時代において間違いなく需要は伸びていく技術です。

系統連系の安定しない再生可能エネルギーをどうやって安定的に運用するか。

エナジーグリッドによって各家庭で生み出されたエネルギーをどのように配分するか。

さらにはユーラシア大陸からアフリカ大陸にかけて超電導の送電線でつなげば、昼夜安定した運用もできるかもしれない。

将来、ずっと必要になる技術ですし、ここに日立が注力するのは重要だと思います。

風力発電設備はエネルコンから調達すればいい、と割り切るのは非常に好感できる戦略です。

 

 

あとは、送配電ビジネスにどれだけ集中できるか、そしてその事業がどれだけブルーオーシャンでいられるかが、今後のキモになるでしょう。

なお、この戦略は中国の送電企業であり、中国最大の売り上げを誇る国有企業、中国国家電網公司の進める事業でもあります。

今後、日立製作所は世界中のあちこちで、中国国家電網公司とぶつかることになるでしょう。

そうしたときに、日本政府がどれだけ外交力、政治力を発揮できるかが次なる課題になると思われます。

以上。