中国によるアフリカ諸国への融資拡大を「債務の罠」「新植民地主義」と批判するのはオカシイ~中国は欧米がIMFを通じて債務国に国有資産売却を迫ってきたのを真似してるだけ~
中国・北京で3日開かれた「中国・アフリカ協力フォーラム」(Forum on China–Africa Cooperation / FOCAC )で、習近平国家主席はアフリカに対して今後600億ドル(約6.6兆円)の経済支援を行うことを表明しました。
このことは、中国国内に需要がなくなってきていることが背景にあります。
また、IMF、世銀など欧米が主導してきた経済システムの役割が落ちてきていることも影響しています。
中国による今回の巨額金融・経済支援に対しては、欧米メディアや知識人などからは「債務の罠に注意が必要」「新植民地主義のあらわれ」などと批判する声が出ています。
しかし、これらは借金をする側の問題点をまったく無視している主張だと言わざるをえません。
また、今までIMFを利用して上手いこと債務国の国有資産をガメたり、関税自主権を放棄させてきた欧米諸国が言えた義理でもありません。
欧米諸国は今まで世銀などを通じて債務国に貸し込み、その国の債務状況が悪くなるとIMFによる管理下に置き、「国有資本改革」という名目で国有の港湾や空港、鉱山や油田権益などめぼしいものを売り払わせたり、関税自主権を取り上げて貿易自由化を迫ったり、知財などの法律を欧米側が利用しやすいようにルール作りしたり、金融部門への外資導入を迫ったりしてきました。
つまり、IMFや世銀、開銀なんてものは欧米資本が債務国の経済活動を支配するためのツールでしかありません。中国は、そのIMFの真似をしているだけに過ぎないのです。
いま中国がやっていることは欧米諸国がかつてやってきたことと同じです。
リーマンショック後の体力低下で、世銀や開銀、IMFを利用した悪巧みをするだけの余裕が欧米諸国になくなっていた。
その間に中国が欧米資本の真似をしてアフリカやアジア諸国に貸し込んできただけです。
アフリカ諸国はこれまで何度もデフォルト(債務不履行)を発生させており、いわば借金癖のついた悪い子です。
きっと20年以内にはまたデフォルトが起きるでしょう・・・20年もかからないかもしれません。5年以内の可能性もある。
中国はこのままの調子でいけば数年後には経常収支が赤字に転落する可能性が高く、現状でも中国の外貨準備の多くが海外からの投資を背景にしたものなのですから、実際には中国はこのままアフリカなど新興国に多額の援助をしつづける余裕はないはずです。
債務不履行のドミノが発生する可能性は十分に高まっており、それは中国自身がよくわかっているはずです。
そんなことは統計をみればわかることですし、外野の自分たちよりもよっぽど精緻な統計をみているはずの中国政府の連中がわからないはずがありません。
にもかかわらず、なぜアフリカやアジア・オセアニアの新興国にこれほどまでに支援をし続けるのか?というと、それはたぶん、
1.中国国内の産業に資金需要がなくなってきていること
2.ODAが利権化してきていること
3.借金のかたに権益を差し押さえる目的
が背景にあると思われます。
このなかで、欧米は3の「借金のかたに権益を差し押さえる目的」ばかりを喧伝しますし、警戒しています。
たしかにそういった例は過去数年にわたってみられており、たとえば
スリランカのラジャパクサ前政権下で行われた13億ドルの借金のカタに、シリセナ政権がハンバントタ港の中国への99年間貸与を認めたことは象徴的でした。
このことが、同様に一帯一路のためとして中国から借金をしてきた多くの国々(とくにモルジブ、パキスタン、ミャンマー、マレーシア、ジブチなど)で警戒感を呼び起こしてきたことは確かです。
ミャンマー・チャオピュー深海港開発を縮小?CITICはどうする?
しかし、個人的にみると、たぶん話はそう簡単なものじゃないと思います。
今回の中国・アフリカ協力フォーラムにおける融資拡大も含め、中国が対外融資を拡大してきた背景には、中国国内の投資案件にめぼしいものがなくなってきている・・・それが一番の理由だと思います。
例えばそれは、アリババやテンセントを見てもわかります。
彼らがかつて達成してきた利益成長スピードと、ここ一年の利益成長スピードを比べてみたらわかりやすいです。トップラインで見ても、ボトムで見ても、直近の決算はどうみても頭打ちですし、先進諸国と比較しても魅力的な業績ではありません。
タオバオ(Taobao)などを展開するアリババ集団の業績を見てみよう
こんなことをいうと、「テンセントやアリババに代わる高成長企業が出てきているんじゃないのか?」
と言われそうですが、それらはまだ出てきていません。
というか、ユニコーンの多くは赤字体質です。
むしろ、カネの無駄遣いが激しくなってきている、資本効率を無視した投資が行われている・・・そんな印象を受けます。
中国国内にめぼしいフロンティアがなくなってきたから、次のフロンティアをみつけるために中国・アフリカ協力フォーラムの機会を利用して融資する・・・というのが1で書いた意味です。
もうひとつ、2についても見ていきます。
中国の政治状況については自分は詳しくないので、他国での歴史的な経緯との比較で話すことしかできませんが、個人的にはこの
「ODAが利権化してきている」
というのは十分にあるのではないか、とみています。
日本でもかつて(というか今でも)、ODAや政府保証融資、貿易保険などを通じて日本企業を海外市場に送り出してきました。
たとえばそれは、三井物産や三菱商事、丸紅、伊藤忠などの企業が権益を買うとき。
日揮や東洋エンジニアリング、千代田化工建設などのプラント企業が大型設備の受注をするとき。
などなどさまざまな場面で政府が支援し、それらは「ヒモ付きODA」などと言われました。
これと同じことが中国でも行われている可能性が高い・・・というか行われていますね、明らかに。
宇通客車などがバスを納入するのも、BYDがモノレールを納入するのも、三一重工が重機を納入するのも、ぜんぶ政府保証つきです。
なんのことはない、中国がアフリカ諸国に融資したカネは、まわりまわって中国に戻るように設計されているヒモ付き融資なわけです。
やっていることは日本がやってきたこととあまり変わりないわけです。
さて、今後はどうなるでしょうか。
個人的には、アフリカ諸国のデフォルトはいずれ避けられないと思います。
アフリカは、過去にこれだけ頻繁にデフォルトしてきたんです。
今後しないはずがありません。
中国は、大方の予想通り資源や農地などを借金のカタに接収するでしょう。
そういった目的がなくて、ただ慈善活動として11~12兆円もの資金を貸し込んでいるわけではありません。(今回の6兆円のほかに、2015年にも中国はアフリカ諸国に多額の融資をしています。)
数年後には、反政府・反中国の動きと、中国にべったりな政府との間で衝突が起きる可能性は十分に高いです。
人権を口実にして欧米が介入する可能性も高い。
代理戦争がアフリカの大地で行われる可能性は十分に高い。
その時の戦争は、いまよりも遥かに自動化が進んだものになるはずです。
中国もアメリカも、自国の軍事技術の実験場として内戦を利用するはずです。
AIによる自動化兵器や、ドローンなどを利用した自律型兵器システムが投入される可能性があり、軍事史に残るような内戦になるんじゃないかと予想しています。
ジュネーブで自律型致死兵器システム(LAWS)に関する国際会議開催
つい数年前まで、日本でもアフリカをネクストフロンティアとして持ち上げる論調が多くありました。
しかし、いまのアフリカはとてもじゃないけどリスクが高すぎる。
こんなキナ臭いところに乗り込まない方が良いと思います。
雨降って地かたまるまで、そっと見守っていった方がいい。
そんなふうに思います。