『高株価経営』は現代における直接金融のひとつの到着地点

『高株価経営』について ~現代における直接金融のかたち

 

キーワードは『高株価経営』

質問箱に以下のような質問をいただきました。

 

  • 株式投資における直接金融機能がよくわからない。
  • 我々が株を買うことの意味とは?
  • 企業が高い株価にしようと優待などを設ける意味とは?

というご質問です。

いつも質問箱のご利用ありがとうございます。




 

 

 

ハッキリ言いまして、この質問に完璧に答える自信はありません。

完璧に答えようとすれば、それこそ株式とはなんぞや、株式会社とはなんぞや、というところから始める必要があり、たぶん数十万文字程度が必要になります。

とてもとてもそこまで書ききる気力もないですし、たぶん読んでもらえないでしょう。

というわけで、かなりざっくりと纏めます。

では始めます。

キーワードは『高株価経営』です。


『高株価経営』の説明の前に、まずは株式会社とは何か・・・について整理

 

『高株価経営』について書く前に、まず株式会社とは何を目的にしたものか、について整理しておきます。

この「株式会社は誰のためのものか、何のためのものか、」

という論については、左右さまざまなイデオロギーが絡みあい、非常に盛んに議論が展開されてきました。

しかし、法的にみれば間違いなく、

「株式会社は株主の持ち物」

であります。

株主は取締役を選任し、取締役は株主からの負託に従って経営します。

取締役は善管注意義務と忠実義務をしっかり履行しながら株主価値の極大化を目指すことが求められています。

ここまでが法律論としての株式会社の意味。

上場していようが、上場していまいが、この

「株主と株式会社と取締役の法的関係」

は変わりません。

そして、株式がいざ証券取引所でパブリックに公開されると、株式の価値がわかりやすいように、株価というものがつけられるようになります。

この株価は、多くの方がご存知のとおり、一般的には売る人と買う人の相対取引によって成立しています。

では、株式会社が株式を公開する意味は何でしょうか?

 

 

株式会社が株式を公開する意味と、『高株価経営』の関係

株式会社が株式を公開する意味は何でしょうか?

これは幾つかの立場から見ていく必要があるでしょう。

まず既存株主からみると、上場後に売却することで現金化できる、という意味があります。

また従業員などからみると、周辺の人達に「俺は東証一部の大企業に勤めているんだぞ!」とドヤ顔することができるようになります。

本人の価値は何も変わってなくても、偉そうに振る舞えて気分がいいです。

OB訪問アプリで女子大生を喰いまくれるかもしれません。

(株式上場はすばらしい!)

また債権者などからみると、当該債務者はいざとなったら増資などで資金調達し易くなりますから、それだけ安心できますし、社債などの価格も安定します。

そして最後に、企業側のメリットとしては、『高株価経営』がとりやすくなります。

 

ようやく『高株価経営』の説明にたどり着きました・・・

前置きが長くて申し訳ありません。

 

 

 

『高株価経営』とはなにか?

ここからは『高株価経営』について書いていきます。

とりあえず、『高株価経営』とは高い株価を利用した経営戦略のことです。

ここでいう高い株価というのは、単に価格が高いというのではなく、バリュエーションが高いという意味です。

割高感を常に高く維持する、つまりは期待感を常に維持すること。

そのことで、より有利な条件で経営をしていくことが目的です。

 

これはどういうことかというと、(質問者様の質問にもありますが)、株価が上昇すれば増資・エクイティファイナンスを有利な条件でしやすくなり、その新たに得た資金を投資に回すことで、企業活動を拡大することができるという考え方が根本にあります。

これは古くからの手法であり、もはや高校の教科書にすら載っているような内容ですから、多くの人がご存知のはずです。

 

しかし近年、『高株価経営』の目的は増資だけに留まらなくなっています。

2000年ころのITベンチャーが始まりだったと思いますが、自社の割高な株価を利用して、割安な企業、自社に必要な企業を株式交換で買収しまくる経営が盛んにおこなわれました。(※1)

※1・・・アメリカでは基本的に、株式会社は株主のものであるという減速が徹底されていますから、既存株主は買収提案が合理的であれば、オセンチな感情を外して買収提案に応じます。

 

自社の割高な株価で、割安な企業の株式や事業を手に入れますから、どんどん事業が大きくなるわけです。

 

 

『高株価経営』の死角

ちなみに、この『高株価経営』にも死角があります。

というのも、買収側企業の株価バリュエーションが実際に割高なのが本当に皆にわかってしまっていたら、被買収企業の株主も割高な株価はいらないよ、と言い出すということです。

だから、本当に割高だと思われたらダメです。

あくまでも、経営陣は割高だと感じているけれど、多くの人にはレシオ的な割高感が正当化される神話が存在することが重要です。

たとえばそれはITバブルであったり、今でいえばクラウドビジネス万歳であったり、バイオ技術万歳であったり。

そういった夢を皆に見せることができるかどうかが重要です。

 

 

 

『高株価経営』は従業員への報酬にも利用される

なおこの『高株価経営』ですが、近年は盛んに従業員への報酬に利用されています。

ストックオプションなどの形で労働者に分け与えることで、従業員に対するキャッシュでの支払いを避けるとともに、従業員のやる気を喚起。

従業員にキャッシュで賃金を与えないことから、非現金収支となり、Non-GAAPであれば米国会計基準でも費用としてみえてこない。

もちろん、GAAPでは費用としてみえますから業績悪化要因になりうるのですが、付帯してNon-GAAPの決算内容をのせて

「ほら、実質ベースでは黒字ですよ。」

と、株主に対してお化粧された決算内容をみせることができるわけです。

こういった手法が多くの企業で利用されています。

(先日紹介したZSやOKTA、SPLKなどはその手の銘柄です。またアリババなども同じくです。)

【ZS】ゼットスケーラー(Zscaler)の業績、決算、株価~クラウド時代のプロクシ屋

【SPLK】スプランク(Splunk)の業績・決算と株価~データ分析とSEIM製品大手

【OKTA】オクタ(Okta)の業績・決算と株価~クラウド対応のシングル・サインオンツール(IDaaS)

アリババ集団の業績と株価を見てみよう~タオバオ(Taobao)やTモールなどを展開

 

『高株価経営』は、別に悪いことではありません。

『高株価経営』は、高株価であることを利用して、既存株主の利益極大化を早めるための手法です。

これは、新しく株式を手にしてくれる新規株主の期待感に大いに依拠した経営といえます。

ある意味で最新型の直接金融の形であり、たぶん今後も数十年、この手法は有効だと思います。

有効でなくなるとしたら、神話が媒介手段となっていることが論文などで体系的にまとめられた場合でしょう。

その時は、経営学の形が大きく変化して、現代的な『高株価経営』も廃れるはずです。

 

 

 

日本企業で『高株価経営』を採用できている企業はほとんどない

以上の点をふまえて、日本企業をみてみましょう。

ぶっちゃけ、上記で書いたような現代的な『高株価経営』を実現できている企業はほとんどないのではないでしょうか?

あったとしても、高値で増資して資金調達したまま、その後に株価が下がってもほったらかし、、、みたいなところが多い。

昔のライブドアとかこれですね。

株式分割して愚かな個人株主を誘引して大量に増資して株価が下がってほったらかし・・・

それは『高株価経営』というより、ある意味でマルチみたいな感じです。

本当の意味で『高株価経営』とは言えないでしょう。

 

また、単に株価を高くすることが目的の企業もたくさんありますが、これも『高株価経営』をしているとはいえません。

株価が高いことを利用せず、ただ株価を高くすることだけが目的というのは、何の戦略性もない。

こういった企業に、信越化学やファナックなどがあります。

まぁ、日本では株価を高くすることにコミットすることすらできていない企業が多いので、そういった「チャレンジしない経営」でも称賛されるところがありますが、一般的に言ってその程度の経営は、できて当たり前といえます。

とりあえず株主に報いようという意識が強いだけ、これから書く企業群よりはマトモです。

とりあえず、下に書く「株主優待で株価を上げようとする企業」はガバナンスの体もなしていないクソ企業です。

直接金融とは何の関係もありません。

 

 

 

日本企業が株主優待を増やして株価を上げるのは『高株価経営』とは違う。

ご質問の中に株主優待についての質問もありましたのでお答えしておきます。

上記で書いてきたように、日本企業で『高株価経営』をきちんと理解した企業は少ないです。

日本企業の経営は、ただ株価を上げればいいと考えているか、それともなければ、ただ上場していればいいと考えているだけです。

そうしたなかで、日本企業が株主優待をふやしているのはなぜでしょうか?

 

個人的にそれは、

「個人投資家を餌付けするため」

だと思っています。

 

もう少しソフトな言い方に改めれば

「個人投資家を安定株主に」

などという言い方になります。

 

しかしなんでしょう・・・個人株主を安定株主にというのはとても変な話です。

非常に舐め腐った態度だと思います。

株式会社というのはある意味で中世の城のようなものです。

そのオーナーである株主は領主です。

領主は領内の城を城主(経営者)に任せている状態です。

城主(経営者)は領主(株主)に毎年のように年貢(配当)を納めます。

配当が少なければ領主(株主)は城主(経営者)を叱ります。

城主(経営者)の能力が足りていないとみれば、城主の交代を命じます。

それは当然のことです。

 

 

その当然の行為を否定する言葉が

「安定株主」「ファン投資家」

なる語彙です。

これらから透けてみえるのは、城主である経営者が、領主を選びたいと考える魂胆です。

根本的な部分からして、ガバナンス、企業統治がなっていません。

 

 

個人投資家は頭が悪い、意識が低い、と経営陣が舐め腐ってかかっている可能性が高いです。

実際、株主総会で買収防衛策に反対する個人株主は少ないといわれますし、持ち合い株の解消を促す声も小さい。

議決権を行使する投資家も少なく、役員人事はほぼすべて会社側提案が通るのが当たり前です。

うるさく経営に注文をつけてくるアクティビストよりも、経営に関与してこない「安定株主」である個人投資家を増やしたい・・・

経営者たちはそう考えています。

 

 

つまるところ、株主優待は『高株価経営』のためでもなんでもなく、議決権を個人投資家に多く配分し、

「ファン投資家」「安定株主」

なる愚かで怠惰で乞食な連中を増やすことが目的です。

 

 

こうした活動にとても積極的な企業にカゴメがあります。

カゴメの株主総会では、まさに餌付けともいうべきバイキングブッフェ形式の立食パーティーなどが開かれるそうです。

お土産もたっぷり、優待もたっぷり、そうまでして乞食投資家を増やそうとしています。

 

アメリカが『高株価経営』にまい進するなか、日本は基本的な企業統治すら蔑ろにして株主優待を存続

さきほども書いたように、株式会社というのはある意味で中世の城のようなものです。

その城の権利関係を細かく細分化したのが株式であり、株主平等の原則に則り、保有株式ごとに利益処分などの権利を有することになります。

配当もその一環です。

しかし、株主優待はこの株主平等の原則から外れます。

株主優待は株式所有比率に比例して権利が与えられるわけではありません。

ですから、株主優待が充実すれば充実するほど、細かい投資家が増えやすくなります。

そしてそういう細かい投資家は、乞食のように株式会社にとりつくだけで、会社側に注文を行わなくなります。

 

 

もうおわかりでしょう。

株主優待は『高株価経営』でもなんでもありません。

ガバナンスを無視した怠け経営者が保身のためにやっていることであり、直接金融の仕組みとか、そういうのとは全く無関係です。

むしろ、直接金融の仕組みから大きく外れているのが株主優待であり、『高株価経営』とも相容れない価値観です。

株主優待を求める人は、根本の部分からして感覚がアマッタレているのであり、ロジックが破綻しています。

株主優待を導入しようと試みる経営者はクズであり、それを許す株主も求める株主もクズであり、さらには株主優待制度の存続を許す東証、金融庁、日本政府、日経新聞などのメディアも含めて論外です。

とりあえず、直接金融の形を取り戻すためにも、株主優待はなくなるべきと思います。

 

・・・って論点ズレちゃったアハ。

おしまい。