仏マクロン大統領提唱の「真の欧州軍」はNATO外交からの決別を意味する一大事

仏マクロン大統領提唱の「真の欧州軍」構想に独メルケル首相が同調~欧州は対露・対中外交において独自路線を狙う~米防衛産業に打撃~中国にポジティブ~

 

 

フランスのマクロン大統領が「真の欧州軍」の創設を提唱しています。

2018年11月6日、フランスのマクロン大統領はラジオ番組のなかで「中国、ロシアからだけでなく、米国からも自分たちを守る必要がある」と発言・・・「真の欧州軍」構想を発表しました。

11月11日には第1次世界大戦休戦協定の締結100周年を迎え、戦没者追悼のための記念式典が開かれましたが、その直前を狙ったマクロン大統領の発言に世界は揺れました。

11月10日には式典のためフランスを訪れたトランプ大統領と仏マクロン大統領が会談し、この「真の欧州軍」構想について説明。

直後には理解を示す姿勢もみせたトランプ大統領ですが(事の重大性がわかってなかった?)

13日になって突如「真の欧州軍」構想を批判し始めます。

「(第二次世界大戦時)米軍が到着する前、パリではドイツ語の勉強が始まってた。」

と昔のことをほじくり返し、NATOの分担金を払えよ!と怒っています。

(これはフランス人にとっては侮辱ですね。ナチスドイツが進駐してきたフランスにはヴィシー政権が成立。子供達にはドイツ語教育が施され、パリジェンヌは挙ってドイツ将校の情婦になりました。ルイ・マルのルシアンの青春の世界です。それを解放したのは、アメリカです。)

「恩を忘れたのか?「真の欧州軍」構想なんてフザけたこと言ってないで、NATOで決められたとおり防衛費2%ちゃんと払えよな!」

って、トランプは言っているわけです。

んまぁ、ある意味で筋は通っていると思いますが、あいわからず持ち出す話題が下品です。

 

 

 

 

メルケル首相も「真の欧州軍」構想に賛同

仏マクロン大統領の提唱した「真の欧州軍」構想に独メルケル首相も賛同を示しています。

Merkel Joins Macron in Calling for a European Army ‘One Day’

これで、欧州二大強国が「真の欧州軍」構想に賛同したことになります。

特にフランスは核戦力を持っていますので、実際に「真の欧州軍」構想を実行するさいには主力としてふるまうつもりでしょう。

 

 

 

「真の欧州軍」構想の真意

仏マクロン大統領の提唱する「真の欧州軍」ですが、これはひとえに、気まぐれな米国主導の外交からの脱却を目指すものだと思います。

NATOは、基本的に米国が主導する軍事同盟です。

世界のどこで戦争があろうとも、NATOの枠組みで米国に追随して戦争にいかねばなりませんし、これまでずっとそうしてきました。

しかし、どうも最近、この米国追随に疲弊感が出ています。

直接の引き金は、対イラン政策の違いでしょうか。

それとも対露、対中政策でしょうか。

それら全体をひっくるめて、これ以上NATOの枠組みでアメリカに付き合いきれないよ、とマクロン大統領やメルケル首相は考えているのかもしれません。

 

 

 

「真の欧州軍」構想は欧州の外交路線を一変させる

まちがいなく、「真の欧州軍」構想は欧州の外交路線を一変させることでしょう。

いままでの米国への追従姿勢から、今後は欧州が独自に外交方針を決めていく方向に舵が切られます。

対イラン核合意を米国は一方的に破棄しましたが、これにより、欧州の企業の中には米国に追随してイラン内の権益を放棄させられた、もしくは開発を停止させられた企業もあります。

明らかに、これらは欧州各国の利益になっていません。

 

また、ロシアからの天然ガスパイプライン・ノルドストリームおよびノルドストリーム2ですが、これについてもアメリカはやめさせようとしています。

関連記事:独露首脳がノルド・ストリーム2の推進で合意~ウクライナの立場が危うい~

アメリカからLNGをタンカーで買い付ければいいだろ?とトランプ大統領は言っているわけですが、当然、液化、積出、積上の作業がかかりますからコストは高くなります。

そんなものに欧州がついていくのはまっぴらごめんでしょう。

 

 

「真の欧州軍」構想をいちばん喜んでいるのは中国か

「真の欧州軍」構想でいちばんほくそ笑んでいるのは中国だと思います。

中国はご存知の通り、米中貿易戦争を続けています。

米国は、中国に対して最先端の生産設備の販売を制限しようとしており、半導体製造装置などの販売にストップをかけています。

こうした方針を欧州にも裏で強いている可能性があり(要するに経済のブロック化)、欧州首脳陣の発言は、こうした流れを意識してトランプ政権を批判する論調が目立っています。

 

中国は目下、半導体の自国生産を目指しています。

【中国】半導体製造イノトロン(合肥長鑫/睿力集成電路)、蘭ASMLからEUV露光装置の調達めざす

こうした方針のもと最先端の半導体製造装置を買い付けしたいわけですが、オランダのASMLのEUV露光装置の対中輸出には、アメリカがあれこれ言ってくる可能性が出ています。

中国半導体メーカー福建省晋華集成電路(JHICC)に対し、米国が輸出管理規則(EAR)に基づく制限措置を発動へ~本格的に中国企業をハブり始めた!

欧州は米国の都合による商売の邪魔を嫌がっています。

自分たちの方針は自分たちで決めたい、と考えています。

 

中国は欧州から最先端技術を買いたいですし、逆に欧州に製品の輸出をしたい。

欧州は中国国内へ投資を増やしたいし、技術を高く買わせたい。

ユーラシア大陸の端と端で利害が一致しているのです。

そして、そのあいだのロシアもまた、エネルギーや鉱物資源、安い労働力でこれらの国々の発展から恩恵を受けるチャンスを狙っています。

とりあえず、「真の欧州軍」構想によって、対中包囲網がやぶれることは覚悟する必要があります。

 

 

 

「真の欧州軍」構想は米国の軍需産業にとってネガティブ

「真の欧州軍」構想によって、フランスやドイツは欧州域内で兵器調達を急ぐ可能性があり、これはアメリカの防衛産業にとって非常にネガティブと思われます。

とくに、航空機分野ではすでに欧州はエアバスなどからの調達が多いためボーイングへの影響は大きくなさそうですが、迎撃ミサイルシステムなどに関しては、欧州独自で開発するとなるとレイセオンなどにとってはネガティブになると思われます。

 

 

「真の欧州軍」構想の影響はまだまだ続く・・・

ざっと考えただけでもこれだけ多くのことに影響してくる「真の欧州軍」構想。

今後、さらにまったく別の要素が加わってくる可能性があります。

先日のペンス発言とあわせ、今年起きた二大イベントのひとつと言えます。

ポンペイオ国務長官、王毅外相と非難の応酬~中国はペンス演説に本気で怒ってる~

しっかりと捉えておく必要があると思います。

 

以上です。