日産によるルノー株取得は株主への裏切り行為~潤うのは新経営陣と天下り経産省だけ~
ルノー・日産、くすぶる資本再編への思惑
ルノー、日産自動車、三菱自動車のトップによる三者会談が先日行われました。
このなかで資本比率は維持すること、アライアンス体制の継続などが話し合われたといわれています。
しかし、日産自動車の新経営陣のなかには、カルロス・ゴーン氏放逐のこの千載一遇のチャンスを利用して、ルノーとの「不平等な」資本関係の整理を狙っている向きもあるといわれています。
ルノー・日産の資本関係を簡単に整理
ここでルノーと日産の資本関係を簡単に整理しておきます。
- ルノーが日産株を43.4%保有
- 日産がルノー株の15.0%保有
- 日産が持つルノー株は、フランスの法律上、議決権が発生しない(相互出資の片方が40%以上の株式を持つ場合、子会社側からは議決権が消える)
簡単にまとめると、上記のようになります。
どうしてルノーと日産は「いびつな」資本関係になったのか?
どうしてルノーと日産は「いびつな」資本関係になったのでしょうか?
これは簡単に言ってしまえば
「日産は20年前に倒産しかけた。それを助けてくれたのがルノーだったから。」
ということになります。
10年近く赤字を垂れ流し続け、このままでは倒産してしまう瀬戸際にあった日産自動車を助けてくれたのがルノーです。
6000億円以上もの資金を投入して経営再建し、日産自動車の時価総額を数倍にアップさせてくれたのがルノーです。
メディアはこのルノーと日産との資本関係を「いびつ」と表現しますが、まともな株式クラスタの人間なら、これを「いびつ」とは感じないと思います。
常識的にいって、ルノーに対して資本関係を整理しろという方が恥知らずです。
日産の経営陣は、誰に向かって口をきいているんでしょうか。
ルノー株の25%を取得すれば、ルノーが持つ日産への議決権が消える
日本の会社法では、相互出資をしていた場合、子会社側が親会社の発行済み株式の25%を取得すれば、親会社の持つ子会社への議決権が消えるとされています。
最終的には、これを利用して日産自動車がルノー株を買い進め、議決権を消してしまえばいいと言っている人もいます。
現在、日産自動車はルノー株を15%保有していますから、のこり10%を買い進めば、ルノーによる日産自動車への議決権が消えることになります。
しかし、これが果たして日産株主のためになるのでしょうか?
日産経営陣の保身のために、ルノー株取得に3000億円使うことは株主への背信行為
おもうに、そんな金があるなら株主に還元すべきだと思います。
ルノー株を10%買い上がるのに必要な金額は、安く見積もっても3000億円です。
実際にTOBなどになればもっとかかるでしょう。
5000億円くらいは覚悟すべきと思います。
問題は、このルノーとの資本整理が株主のためになるのか?という話です。
間違いなく、株主の一人であるルノーにとってはメリットがありません。デメリットだけです。
また、一般株主もルノー株を日産が買い上がる意味は全くないはずです。そんな余裕資金があるなら株主に還元すべきでしょう。
機関投資家も、日産自動車によるルノー株買い上がりに対しては苦言を呈するはずですし、もし何もアクションを起こさないならば、機関投資家自体も受託者としての責任を放棄していることになります。
そもそもルノーの議決権を消したからといって、フリーハンドで経営できるわけではない
ルノーの43.4%の議決権が消えたら、それでフリーハンドの経営ができるようになるというわけではありません。
日産は外国人株主比率が62.8%と高いわけで、仮にルノーのぶんが抜けたとしても20%弱は残る形になります。
ルノーが消えることで議決権比率は30%台半ばくらいにはなるわけで、かなりの議決権比率であることは間違いありません。
日産自動車がルノー株取得を目指すとしたら、次の株主総会より前?
日産自動車はルノーとの裏契約で、経営トップをルノーからの人材にすると決めているそうです。
【日産】改定アライアンス基本合意書(RAMA)は親子上場の弊害を表す最たる例【ルノー】
ということは、次の株主総会でルノーは日産経営トップを西川広人からルノー側人材にかえようとする可能性があります。
そのタイミングで、「経営への介入だ」と騒ぎ立て、ルノーの持つ議決権を消そうとし始めるかもしれません。
以上はあくまでも個人的な見立てです。
日産自動車によるルノー株取得は、株主にとっては最悪の選択。西川広人など経営陣だけが潤う選択。
上記の通り、日産自動車によるルノー株取得は株主にとっては百害あって一利なし。
新経営陣たちが潤うだけで、まったくいいとこなしです。
むしろルノーにさっくり吸収されてしまった方が、株主にとっては好ましいはず。
なんにせよ、西川広人という人物は株主ではなく、経産省や官邸の方ばかりに目が向いているようにみえます。
これは、旧態依然とした日産への回帰であり、鮎川義介の時代への逆戻りです。
こうした経営陣を温存するような決断を日産の株主がもし選択するのだとしたら、日本市場への海外からの目は非常に厳しいものになることでしょう。
とりあえず、今回の件は日本のマーケット全体の印象を左右する大事件だと思います。
後世まで禍根を残さないように、この際なので、きっちりと資本の論理にしたがった再編が行われることを期待します。
以上。