ハードブレグジット(Hard Brexit)のリスク高まる~バックストップ条項は無意味~バルニエ首席交渉官
「ハードブレグジットに備えを」とバルニエ首席交渉官
イギリスのEUからの離脱問題ですが、EU側の交渉担当者であるバルニエ氏が手の内を明かしています。
No-deal Brexit can only be stopped by MPs backing another solution … RTE
Michel Barnier warns UK still risks no-deal Brexit FT
具体的にいうと、
イギリス議会が否決してしまったEU側との離脱合意案を受け入れるか、もしくは合意がないままの離脱か、そのどちらか二者択一しかない・・・
ということです。
そしてさらに重要なこともいっています。
ブレグジット交渉とアイルランド国境問題
現在ブレグジット交渉のなかでは、アイルランドと北アイルランドの国境問題が争点になっています。
イギリスのEU離脱後、アイルランドと北アイルランドの間の国境をしっかり管理することは非常に難しい、というのが専門家の見立てです。
まず国境線が長く、ひとつの所有者の敷地(羊の放牧場や畑)のなかを国境が走っていたりします。
一つの道路を走るなかでも、くねくねと蛇行しながら、アイルランドと北アイルランドの国境を何度も跨いだりするそうです。
アイルランドと北アイルランドの国境がないことは、現地の人々の日々の生活の一部として受け入れられており、ここに厳格な国境線を置き管理することは非現実的というのが大方の見立てです。
また、かつてシンフェイン党が独立闘争を繰り返した歴史もあり、厳格な国境管理を敷けば不満を高めて北アイルランド統治にも悪影響が出るとの声もあります。
アイルランド国境問題とバックストップ条項
というわけで、イギリスのEU離脱後にも、このアイルランドと北アイルランドの国境の管理で揉めないように、バックストップ条項を導入すべきという動きがあります。
バックストップ条項というのは、英国がEUから離脱したあと、アイルランドと北アイルランド(イギリス)の間の国境を開放しておくための取り決めです。
これにより、北アイルランドはEU側のルールが適用されます。
バックストップ条項に反発する英議会
しかし、これに対して英国議会では猛反発が出ています。
英国と北アイルランドは同一の国なのに、このルールに従うと英国から北アイルランドへのモノや人の行き来に、EU側のルールが適用されるから。
同じ国のなかなのに、移動にEU側からの制約がかかるのは主権の問題になります。
そこで、メイ首相は新たな提案をしました。
メイ首相、ブレグジット後2020年12月までに協議が成立しなければバックストップ条項を恒久化することを提案
上記のような展開を辿り、膠着状態におちいったブレグジット問題は、メイ首相の提案で動き出しました。
それは、ブレグジットは行うが、その後2020年12月までEU側と協議をつづけること。
それまでに協議が成立しなければ、バックストップ条項が適用されるというものです。
つまり簡単にいうと、2020年12月までに話がまとまらなければ、北アイルランドはEU側のルールが適用されることになる、というものです。
しかしこれは、つまり北アイルランドの主権が永遠にイギリスから大陸側に移る危険性を孕んだものです。
バックストップというのは、つまるところ英国の主権への挑戦です。
これには当然、議会がさらなる猛反発を示します。
英議会はバックストップ条項に期限を設けるよう主張
こうした流れのなか、英議会のなかにはバックストップ条項に期限を設けることを主張する勢力も増えてきました。
また、英国の主権を簡単に他国EUに譲渡そうとしたメイ首相に対しては、議会侮辱動議を可決するなど圧迫を強めています。
バックストップに関する法務長官のアドバイスを公開するよう要求するなど議会は徐々に単なる政争の場へと転じ始め、建設的なEU離脱方針はなかなか示されないようになりました。
こうしたなか、バルニエ氏は以下のような発言に至っています。
バルニエ首席交渉官「バックストップ条項は期限付きでは役立たず」
こうした英議会の動きに対してバルニエ氏は「期限付きでは意味がない」と拒否しています。
これが今回の発言のキモじゃないかと思います。
バルニエ氏はブレグジットするにしても、アイルランドと北アイルランドの国境はがっちり開放しておくように、と迫っているのです。
そして、それをイギリス側が呑めないのもわかっています。
イギリスがバックストップ条項なんて飲めないのは十分に承知でしょう。
それでもなお、
「協議なしのEU離脱(ハードブレグジット)」もしくは「メイ首相との先の協議の履行か」を英議会に納得しろとせまっています。
つまり、バルニエ氏は英国をEUに残したいだけ
つまり、バルニエ氏は北アイルランド問題を人質にとるかたちで、英国のEU残留を後押ししたいだけ、だと思われます。
英国側に譲歩を見せることなく、相手が呑めない提案を出しつつ、相手の痛みを理解しつつ、それでもなお強硬策をちらつかせる。
ブレグジットなんてさせる気がないんでしょう。
ほとんどチキンレースに等しい交渉にみえます。
ですが、英議会側もこれまでの長い長い議会制民主主義の歴史と、英連邦としての意地の問題が絡んできています。
北アイルランドの統治を棄てる気なんてないでしょう。
ハードブレグジット(Hard BREXIT)になると思う・・・という件 11月18日
かくして、ハードブレグジットしかない、そんな状況に向かってひた走っているのが現実です。
色々お疲れさまでした。
以上。