『ジェイシモハメド(JeM)』による自爆攻撃を起点にしたカシミール紛争、いまだ収まらず

『ジェイシモハメド(JeM)』による自爆攻撃を起点にしたカシミール紛争、いまだ収まらず

 

印パ軍事衝突の危険性は甘く見ない方が良いと思う件~インド株投資の潮目変わるか?

で書いた通り、やはりインドとパキスタンの軍事的緊張はエスカレートしています。

とりあえず、これまでの流れを纏めます。

 

 

カシミール地方で『ジェイシモハメド(JeM)』によるとみられる自爆テロ発生、インド側に40人の死亡

2月14日、インド治安部隊に対する攻撃が発生し40人が死亡しました。

この自爆テロ攻撃の背景には、パキスタン側に潜伏する「ジェイシモハメド(JeM)」の関与が疑われています。

インド側はこれをうけ、パキスタン領内に越境する形で『ジェイシモハメド(JeM)』のアジトへの空爆を敢行。

インド側の事情として、今年は総選挙があるため、支持率を落としているモディ政権として、弱腰な態度を見せられないという事情があると思われます。

インドがカシミール地方のパキスタン領を空爆~選挙を控えて弱腰をみせられないモディ政権

インド空軍はこの攻撃で400人の『ジェイシモハメド(JeM)』構成員を掃討したと主張。(このインド空軍の発表はたぶんに大本営な可能性が高いと思われます。)

いっきにインド、パキスタン両国の緊張が高まりました。

 

 

 

『ジェイシモハメド(JeM)』への空爆を受けても、カシミール問題を穏便に終わらせようとしていたパキスタンのカーン首相

なお、パキスタン政府側は当初から、事態のエスカレートを望まない姿勢を示してきました。

パキスタンのカーン首相は『ジェイシモハメド(JeM)』による自爆攻撃が起きた当初から、インド側が報復してくる事態を想定。

「攻撃してきたら応戦せねばならない、やられたらやり返す、それ以外はない(だから攻撃してこないでね)」

といった主張を繰り返しており、インド側に自制を求める発言を繰り返してきました。

しかし、現実にはインド側は越境するかたちで空爆を行ってしまった。

 

 

それでもなお、カーン首相は事態を大きくしたくなかったのだと思われます。

「インド側の空爆による被害者はゼロ」

と当初、主張していました。

被害がゼロだから、これ以上騒がないでくれ、と国内にアピールしたかったのでしょう。(もちろん、被害者ゼロだなんてありえないと思いますが)

なるべく穏便に事を終わりにしたい、という考えがカーン首相にあったのではないか、と思われます。

ただ、カーン首相の思いとは裏腹に、軍の方はどんどん動いていってしまっているようにみえます。

 

 

インド・パンジャブ州の独立を目指す『ジェイシモハメド/ジャイシュ・エ・ムハンマド(JeM)』

ここで『ジェイシモハメド(JeM)』について書いておきます。

『ジェイシモハメド(JeM)』の正式名はJaish-e-Mohammed、ジャイシュ=エ=ムハンマド、ムハンマドの軍隊という意味だそうです。

インド・パキスタンにまたがるカシミール地方で活動をする分離独立派で、過去にもたびたびインド軍の基地や空港を襲撃してきたほか、民間施設である空港にも襲撃、ハイジャックなどを行ってきました。

指導者はマウラナ・マスード・アズハール(Maulana Masood Azhar)。

パキスタンのバハーワルプール生まれで、イスラム原理主義組織ハラカト=ウル=アンサール(Harkat-ul-Ansar、HuA)の幹部を務めたのち、ケニアやソマリアなどを歴戦。

アルカーイダやアル=イテハド・アル=イスラミーヤ(Al-Itihaad al-Islamiya)などとの関係を築いていると言われています。(Wikipedia、SIPRIなど参照)

 

 

 

『ジェイシモハメド(JeM)』の背景にパキスタン軍の存在を疑うインド

なお、『ジェイシモハメド(JeM)』は名前の通り、イスラム教の集団です。

パキスタンもイスラム教国です。

 

対してインドはヒンドゥ教徒の多い国です。

とくにモディ政権は支持基盤にヒンドゥ原理主義組織がおり、パキスタンとの関係を巡っては常にこの組織からの突き上げを受けています。

『ジェイシモハメド(JeM)』は先にも書いた通り、インド国内でたびたびソフトターゲットを対象に攻撃を行ってきました。

インドとしては、組織の背景からしてパキスタン軍の関与を疑っています。

今回の『ジェイシモハメド(JeM)』からの攻撃に対しては、モディ政権の支持基盤を固めるためにも、やり返さなければならない事情があったのだと思います。

 

 

 

『ジェイシモハメド(JeM)』を起点にした今回の問題の落としどころは?

パキスタン政府側は、いぜんとして対話による解決を模索しています。

あとは、インド政府側と、パキスタンの軍がどう反応するか、という段階にあります。

ぶっちゃけた話、パキスタンは政府よりも軍の方が強いようにみえます。

過去に何度もクーデターが起きている国ですし、カーン首相もそういった事情を踏まえて、自国の軍を刺激しないようにふるまっているようにみえます。

カーン首相の発言をみていると、国外向け、国内向けに「こらえてつかぁさい」と言っているようにみえます。

 

 

とりあえず、現在かなり緊張が高まっているようです。

情報が錯綜していて、報道ベースと現実ベースが乖離しているようです。

パキスタン側もインドの空軍機を二機撃墜したとの報道があります。(インド側は一機撃墜されたと認めています。)

また、パキスタンもインド側に越境攻撃をしたとの報道があります。

ある程度パキスタン軍に花を持たせた状態で、うまく元の関係に戻せるかどうかが重要になりますが、問題は、仲介する立場にいるはずのアメリカがほとんど動いていない点。

一応、電話会談などを個別に行ったそうですが、ただそれだけのようです。

概ねガス抜きが終わったらもとに戻るとは思っていますが、不確実性は残る状態、と見て良いと思います。

以上。