中国の半導体製造メーカー合肥長鑫(イノトロン/睿力集成電路)が、オランダASMLから最先端EUV露光装置の調達めざし交渉中
中国の半導体メーカー合肥長鑫(睿力集成電路/イノトロン)が、オランダのASMLから7nmプロセス用EUV(極端紫外線)露光装置の調達めざして交渉中とのことです。
中国半導体メーカー、欧州から最先端装置 イノトロン、ASMLと交渉へ 日経新聞
いよいよ来たか・・・という感じがします。
ASMLとは?
ASMLは欧州、オランダの半導体製造装置メーカーです。
ASMLが強みとするのは半導体製造装置でも上流部にあたる部分、とくに半導体露光装置(ステッパー、フォトリソグラフィ装置)の業界において世界の最先端を走る企業です。
かつてこの半導体露光装置、ステッパー業界ではニコン、キヤノンなども大きなシェアを持っていたのですが、その後の技術開発競争に敗れ、今では最先端はASMLだけが供給する、そういう状況になっています。
なお、世界中のほぼすべての半導体メーカー、ファウンドリがASMLの顧客となっています。
とくに7nmプロセス以降を生産するのに効率がいいとされるEUV露光装置の世界では事実上ASML一社しか供給する企業がなく、独占的な地位を占めています。
ASMLが販売する「EUVL(EUVリソグラフィ/極端紫外線露光装置)」とは?
EUV露光装置(EUVリソグラフィ/極端紫外線露光装置)とは、波長が超短い、極端紫外線(波長13.5nm)を用いた露光装置です。
EUV(極端紫外線)は波長13.5nmと書きましたが、これは一般的に紫外線といわれる波長280~380nmからは大きく離れています。
基本、280nm以下になるとオゾン層を通過しませんから、オゾンホールでもできない限り人間が大量に浴びることは自然界ではありえない波長の紫外線です。
ここまでくるとほとんどX線(波長1pm~10nm)と同じようなもので、EUVL(EUVリソグラフィ/極端紫外線露光装置)というのはつまり、X線よりちょっとだけ波長が長いだけの光をあてて、ウエハに線を刻む装置、ということになります。
波長が短ければそれだけ細い線幅で半導体ウエハにパターンを焼くことができますから、ASMLが製造するEUVL(EUVリソグラフィ/極端紫外線露光装置)は高性能な半導体を作るにはもってこいなわけです。
このEUV露光装置によって線幅7nmプロセスの半導体製造効率は飛躍的に上がり(他の生産管理に問題がない場合)、5nmプロセスの製造には欠かせない技術とされています。
つまり、シリコンウエハを用いた次世代半導体技術においては、ASMLの開発したEUV露光装置(EUVリソグラフィ/極端紫外線露光装置)は必須の設備・・・というわけです。
というわけで、基本的な部分を踏まえたうえで、話をすすめます。
なぜ中国の半導体メーカー、合肥長鑫(イノトロン/睿力集成電路)はASMLからEUV露光装置を調達したいのか?
それにはいくつかの理由があります。
- EUV露光装置を作れるのがASMLだけだから
- ASMLが欧州企業で、米中貿易戦争の影響を受けない(かもしれない)から
- 中国の半導体輸入額を減らしたいから
まず、1番上から説明します。
1.EUV露光装置を作れるのがASMLだけだから
これは先ほども書いたとおりです。
他に調達先がないのだから、ASMLから買うしかありません。
ちなみにEUV露光装置は一台1億ユーロ(130億円)もするそうです。
供給側が一社独占なのですから、言い値が通るのでしょう。凄まじい金額です。
2.ASMLなら米中貿易戦争の影響を受けない(かもしれない)から
現在、米中は貿易戦争を繰り広げています。
アメリカは中国からの輸入品に多額の関税をかけることで、中国の覇権国化を阻止しようとしています。
さらに一歩踏み込んで、アメリカは対中輸出規制なども行うのではないか?という可能性があります。
中国の製造業はアメリカや日本など先進国の設備を使っていますが、それらを使わせないように、輸出規制をかけるのではないか?と一部で噂されています。
この点、欧州企業であるASMLであれば、輸出規制を行う可能性は低くなります。
とくについ先日、李克強首相がアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に出席して、欧州とアジアが連携してアメリカの保護主義に対抗する姿勢を示したばかりです。
まさかそういう約束をした手前、ASMLのEUV露光装置を中国に輸出規制かけるはずがない、とみているのかもしれません。
3.中国は半導体の輸入額を減らしたがっている
これは深刻な問題です。
ZTEの破綻懸念問題の時にも明らかになりましたが、中国企業はアメリカの半導体に非常に強く依存しています。
米中貿易戦争が激化して米国からの半導体調達ができなくなっても事業が継続するように、中国企業は自前での半導体製造を目指しています。
またもう一つの理由として、以前から書いていますが、中国の輸入額トップが半導体や電子部品になっていることが挙げられます。
石油化学製品、原油などよりも半導体の方が、中国の輸入額が多いのです。
中国はこの状況を打破するため、中国国内で半導体製造を行いたいと思っています。
中国製造2025の中身にもそれはあらわれています。
中国:周辺諸国裏庭化のための半導体投資 その3 有機EL・液晶パネル
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中国では、半導体の輸入額が化石燃料の輸入額を上回っている。(表の緑:半導体227616904千ドル、表の赤:化石燃料412879365千ドル)
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中国の半導体消費量は2017年に世界全体の38%、2022年に43%に達する見通し
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中国政府は、新たに2000億元(約3.3兆円)の資金を投じることにより、国内半導体産業を育成する予定
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中国は2020年に40%、2022年に70%の半導体を自国生産で賄えるようにする予定
中国側にはこういったもろもろの事情があります。
よって、合肥長鑫(イノトロン/睿力集成電路)だけでなく、清華紫光集団やSMIC(中芯国際集成電路製造)なども、数兆円~10兆円を超える規模の投資を行おうとしています。
中国・清華紫光集団、今後10年間で半導体製造に11兆円投資へ
そして、どうせやるなら最先端へ投資して、世界一になるぞ、というのが中国なわけです。
中国は本気で半導体の自前主義を進めようとしています。
先日、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術/Huawei)が自社開発のAscend 910を搭載したサーバーを販売、NvidiaやIntelの抱える市場に殴り込みをかける、という記事を書きました。
ファーウェイが自社開発のAscend 910を搭載したサーバーを販売へ~Nvidia、Intelなどに対抗へ
このときも書きましたが、中国は半導体の設計はできるようになってきましたが、製造がまだ自前ではできないのです。
このAscend 910は7nmプロセスで作られるようですが、お願いするさきはTSMCのようです。
中国は、これを全部自前の企業群にさせたいと思っています。それもすぐに。
今後、この中国側の半導体製造技術へのあくなき欲求が、ASMLの業績下支えになるはずです。
一番の問題は、アメリカがASMLによる中国企業への最先端品の販売を禁止しないかどうか。
もしも中国がASMLのEUV露光装置を手に入れて、いろいろ試行錯誤しながら機器の扱いの技術レベルを高め、7nm、5nmで半導体を大量生産し始めたら、それこそアメリカの企業はあがったりです。
すでにファーウェイなどの設計技術水準は世界トップレベルですから、あとは製造管理技術だけなのです。
そういった状況をアメリカが漫然と眺めているかどうか?
個人的にはちょっと疑問に思います。
以上です。