インドネシア国営鉱山企業インドネシア・アサハン・アルミニウム(イナルム)が、フリーポート・マクモランとリオティントの持つグラスベルグ鉱山を事実上半国有化するそうです。
この件に関しては、以前からも当ブログで紹介してきましたが、いよいよその日がやってきたか・・・という感じがします。
フリーポートマクモラン2018年Q1決算 グラスベルグ(グラスバーグ)鉱山と一蓮托生?
18年5月23日午前 リオティント グラスベルグ鉱山権益売却か
フリーポートマクモラン株急落~世界有数の金鉱山閉鎖の可能性~途上国は中国と米国のあいだを泳ぐ~
以前のブログでも書いていますが、とりあえずグラスベルグ鉱山(グラスバーグ鉱山)は凄いです。金と銅の鉱山として世界的に有名で、どちらにおいても世界有数です。1位、もしくは2位だと思われます。
そして、生産効率も(環境負荷を意識しないなら)圧倒的に高いです。
「環境負荷を意識しないなら」というのはどういうことかというと、つまり「残渣の廃水をどうするかを意識しないなら」もっというと「露天掘りでやるなら」ということです。
グラスベルグ鉱山はニューギニア島にあります。
ニューギニア島・・・中学高校時代の地理で耳にした人が多いと思いますが、昔は食人の風習があったりした地域です。すごく未開の地でした。別名パプア島、イリアン島とも呼ばれます。
鉱山地帯を除いて熱帯モンスーン気候です。
雨がどしゃどしゃ降るんですね。
こんなところで露天掘りをしたら、どうなるかわかりますよね。
銅鉱床には硫化物も他の重金属もたくさん混ざっています。
酸性の水が大量に流れだすことになるわけです。
ふつーに環境意識を高く持っているなら、そんな熱帯雨林で露天掘りなんてやっちゃダメなことくらいわかるはずです・・・でもねやってるんですね。フリーポートマクモランですし・・・
堂々としたものですね。
イリアンジャヤの聖なる山が見るも無残な状態にされてしまいました。
とうぜん、原住民は怒りました。
彼らは襲撃を繰り返すようになります。
これに対してフリーポートマクモラン社は、当時のスハルト政権とつるんで軍事的な弾圧を加えたとされています。
1975年から1997年の間に、わかっている範囲だけでも160人の原住民が虐殺されたといわれています。また、強姦や拷問も繰り返されたということです。
Below a Mountain of Wealth, a River of Waste ニューヨークタイムズ
これに対し、スハルト政権から政権をふたたび取り戻したスカルノの娘メガワティ党首率いる闘争民主党系の現政権は総括を求めていたわけです。
フリーポートマクモランに対し現在のインドネシア政府は、環境規制を非常に厳しくしたり、国有権益比率を引き上げるなどの政策をちらつかせることで大幅な譲歩を迫ってきました。
その結果が、今回のグラスベルグ鉱山権益のイナルムへの低価格売却に繋がっているわけです。
ここら辺の問題の根深さは、今回の売買だけをみただけでは理解できません。
無理やりインドネシア政府が外資から権益を取り上げた、と報道されがちですが、実際はそんなことはないと俺は思っています。ある意味当然の報い、だと思います。
フリーポートマクモランとしても後ろめたい気持ちはありましたから、あまりインドネシア政府、世論の心証を悪くしない形で解決をしたいと思ったのだと思います。
で、問題はこれから先です。果たしてこれで権益比率が安定するか?ですが、
個人的には、しばらくは大丈夫だと思っています。現政権下でこれ以上の鉱山権益比率の変動はないのではないかと思います。ですから、フリーポートマクモランの業績的には予想しやすくなったと思います。そのことは悪いことではありません。
ただ、将来的にこの権益比率が維持されるか?というとちょっと微妙です。
ベネズエラPDVSAによるコノコフィリップスやエクソンモービル資産の国有化はやりすぎだとしても、国有企業比率が80%程度までの上昇は最近の流れとして世界的にあります。今後、より引き上げを求める声が出てこないとも限りません。その点においては、まだフリーポートマクモラン社の業績には暗雲が漂っているかな、という気がします。
なお、フリーポートマクモランの株価(FCX)は以下のようになっています。
織り込み済み、といった感じですね。
特段、大きく反応するような動きにはなっていません。
チャート的には、煮詰まってきているようにみえます。
以上です。